日本の皆様へ / バロン・ルヌアール

日本の皆様へ
バロン・ルヌアール

自然から存在へ、自然は存在に伴うものですが、このことによって存在が無くなるものでもありません。芸術家は彼の観想的な自我のうちに、自然をこれまでにない位リアルに見せるために、再生の過程で無意識に自然を受け入れます。自然は思考と分別の鋭い局面を横切るので、こういうことは芸術家の感情的資質、あるいは感覚にゆだねられます。何故ならそれは「絵画における存在」であるからです。
抽象とは、目を自然の音楽の中にさまよわせておく行為であり、訓練です。その時カンヴァスは動き出します。耳を澄ましてごらんなさい。能の様に、カンヴァスもまた暗示なのです。リズミカルな変身に対する口実なのです。すべてが新しく、想像の世界、再生の世界、現実の世界があたかも生れたばかりの世界のごとく再び現われるのです。
今日の芸術は、過去における問いかけのおかげで、未来に持続しています。黄金のごときものが作品を造り、音楽や詩が作品に生命を与え、精神や理性の光が作品を昇華させます。
また感じ易い状態、あるいは優美な状態は、生存の長い走行の後の高貴な魂の特権でしょうか。神秘と精神的知覚はそこで重要な位置を占めます。何故ならそれらなしでは逃避ができないから。
性格は考慮に入れられなければなりません。人間的な表情、存在感、そしてとりわけ感情の力は大きな役割を果します。触媒の役割です。自然発生的な、思慮に富んだ印象は、常にみずみずしくしておきたいほどであり、造型的言語として表示しておきたいほどです。
何よりも、人間の作品、或いは作品の中の人間は内的です。作品は絶え間なく繰り返された1つの究極で、その使命は思考と瞑想です。その力は言語となり、新たな軌道を創造するのです。
思考から現実の行為へ、現実から非現実へ、作品は自己の内部に表示や意味作用をもたらします。すべては新しい。
画家や彫刻家は、芸術と芸術家であるということに身を捧げなければなりません。そうすることによって国家的見地及び世界的見地にたっての責任が彼らに与えられるのです。
日本とフランスは、相互交流に最後に関心を示す国ではありません。我々のユネスコ造型芸術協会が、文化の本質を捕え、加盟、非加盟にかかわらず様々な国の芸術家の物質的、精神的興味を保護しているということがそれを証明しています。
現代芸術の刺激的交換は同じく大変有意義なものです。人聞の考え抜かれた行動は1つの目標を持ちます。即ち個人に対する尊厳と地位の向上です。
これは東郷青児会長の使命の1 つでもあったと思います。この心の暖い、寛大な人物に私は今感謝の念を捧げます。彼は日本とフランス両国の精神的風土と、永遠の交流の為に貢献しました。我々が1960年以来行ってきたことは、知的創造性によって、国の伝統的なものを回復させることでした。浮世絵と印象派の交流があった時と同じように。
芸術家たちには正当な理由があり、彼らの折衷主義は、先見の明ある発展的な仕事となるでしょう。芸術家たちは、自分達の義務や、混乱する世界で演ずべき自分達の卓越した役割を自覚しています。彼らの宝は、相互の接触であり、相互の尊敬のもとでなされる思想の交流です。
1960年以来、私は文化的な数々の運動を通して、日本の良さを見い出すことができました。たとえば、当時のアンドレ・マルロ一文化相のもとで私が企画した東京でのフォーブ60年展のような。
今年、このような良き美術館で、皆様方が私を暖かく迎え入れてくださることに感謝します。そして我々の「芸術の対話」に友愛的な回答がなされることを期待しています。